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大阪地方裁判所 昭和54年(ワ)8628号 判決

原告

伊藤長兵衛

原告

木川和平

原告

知名定孝

原告

宮城善勝

右原告ら訴訟代理人

宅島康二

被告

国際観光開発株式会社

右代表者

金井基浩

被告

金井基浩

右被告二名訴訟代理人

仲森久司

被告

西嶋東

右訴訟代理人

藤沢正弘

被告

高橋吉隆

右訴訟代理人

高橋武

若原俊二

主文

一  被告国際観光開発株式会社及び被告金井基浩は、各自、各原告に対し、それぞれ二〇〇万円及びこれに対する昭和五五年三月一九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告西嶋東及び被告高橋吉隆に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告国際観光開発株式会社及び被告金井基浩の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一被告会社は、ゴルフ場の経営等を業とする株式会社であることは当事者間に争いがない。

二入会契約の締結

以下の事実は、原告らと被告会社及び被告金井との間において争いがなく、原告らと被告西嶋及び被告高橋との間においては、〈証拠〉により認めることができ、以下の認定に反する証拠はない。

(一)  原告伊藤及び同宮城は昭和四八年二月一日に、原告木川及び同知名は同月一〇日に、それぞれ、被告会社との間で以下の約定で、個人縁故会員として、被告会社が開設し経営する京都府相楽郡南山城村所在のワードビックカントリー倶楽部(本件クラブ)と称する本件ゴルフ場の利用を目的とする「ワールドビックカントリー倶楽部」入会契約(本件入会契約)を締結した。

(1)  入会金 法人縁故会員 六〇〇万円(預託金四〇〇万円、登録料二〇〇万円)

個人縁故会員 三〇〇万円(預託金二〇〇万円、登録料一〇〇万円)

(2)  募集人員 最終総会員数(七二ホール) 四六〇〇人

(3)  昭和四九年七月までに七二ホールを完成し開場する。

(二)  原告らは、被告会社に対し、それぞれ本人入会契約締結時に、個人縁故会員として入会預託金二〇〇万円を支払つた。

三被告らの責任

1  被告会社の入会契約の債務不履行

(一)  先に認定した事実によれば、被告会社は原告らに対し、本件入会契約に基づいて、本件ゴルフ場を約定期間内に完成して開場し、原告らに優先的に利用させる義務を負うに至つたものと解すべきである。

そして、原告らが被告会社に対し、昭和五四年八月七日到達の内容証明郵便をもつて、本件入会契約上の被告会社の右債務が履行不能となつたことを理由に本件入会契約を解除する旨の意思表示をしたことは、原告と被告会社との間において争いがない。

(二)  そこで、原告らの本件入会契約の解除の当否について検討する。

(1) まず、履行不能の有無について判断する。

(イ) 〈証拠〉によれば、以下の事実を認めることができ、以下の認定に反する証拠はない。

被告金井は、昭和四三年頃からゴルフ場の建設を計画しはじめ、昭和四七年夏頃、京都府相楽郡南山城村大字南大河原地区の約一五〇万坪の土地に九〇ホールの本件ゴルフ場を建設する計画をたてた。

被告金井は、同年夏頃、本件ゴルフ場の建設についてゴルフ場予定地の所有者、予定地内に居住する地元住民らの協力を得るために地元住民集会を開き、ゴルフ場建設の説明を行ない、同年秋頃までにゴルフ場予定地の所有者のほか、地元住民の過半数の賛同を得ることができた。そこで、被告金井は、同年一一月、一二月頃、南山城村に対し、村の宅地利用計画指導要綱に従つて九〇ホールのゴルフ場開発申請を出し、被告金井が代表取締役をしていた大阪高層建築株式会社がその用地として山林、農地等の買収を開始した。そして、被告金井は、同年一二月一一日、本件ゴルフ場を開設経営するための会社として被告会社を設立した。

被告会社は、本件ゴルフ場について、第一期工事、第二期工事として各三六ホールずつ、第三期工事として一八ホール、合計九〇ホールの予定で計画を立て、最終的には約一五〇万坪の用地を必要としていたことから、そのための用地買収を続けた結果、昭和四八年二月頃までに約一〇〇万坪の用地を買収又は賃借して確保し、その頃、本件クラブの第一次縁故会員の募集を行ない、前記のとおり原告らと本件入会契約を締結した。

南山城村は、同年一〇月頃、これより先、村長の諮問機関として設置された南山城村開発指導審議会から、被告会社のゴルフ場としての土地開発を相当とする旨の答申を受け、村議会において、その頃右答申に基づきゴルフ場としての土地開発を許可する旨の議決が採択された。

被告会社は、土地買収の当初から、地元関係者より買収予定地内に砂防指定地域が存在するということを聞いて知つており、又、南山城村からも砂防指定地内行為許可の申請をするように勧められ、昭和四八年秋頃、京都府知事に対し右許可申請をした。更に、被告会社は、同年一一月頃、京都府が右村議会の議決に先だつて、ゴルフ場建設事業の規制に関する基本要綱を施行したことから、本件ゴルフ場の建設についても同要綱に基づくゴルフ場建設許可申請を要することになり、南山城村から促され、計画を三六ホールに縮小したうえで右申請を行なつた。被告会社は、村及び有力府会議員を通じて、砂防指定地内行為許可及びゴルフ場の建設許可を得るための努力を行なつたが、いずれの申請も不許可に終わつた。これに対し被告会社は、ゴルフ場建設予定地内の砂防指定地域の存否について、京都府砂防課及び同木津工営所に対して照会を行なつた結果、全地域が砂防指定地域である旨の回答を得たが、これとは別に独自に調査を行なつた結果、右予定地には砂防指定地域が全く含まれていないとの結論を持つに至つた。

その後、被告会社は、昭和五〇年八月二五日、南山城村から同年九月一〇日よりゴルフ場建設工事について着手を許可する旨の通知を受けたことから、砂防指定地内行為の許可を受けないままゴルフ場建設工事に着手した。しかし、被告会社は、昭和五二年二月頃、一八ホール分約二〇万坪の土地につき造成工事をほぼ完了した段階で、京都府から砂防法及び森林法違反で告発され、引き続き被告金井が砂防法違反で逮捕、起訴され、京都地方裁判所において有罪判決を受け、現在控訴審に係属中である。そして、被告会社は、被告金井の逮捕後本件ゴルフ場の建設工事を中止し、昭和五一年九月一三日、京都府に対し改めて砂防指定地内行為の許可申請を行なつたが、同年一〇月二〇日不許可となり、その後、営業活動を停止し、本件ゴルフ場の建設工事を再開できる目途も立たないまま現在に至つている。

(ロ) 以上の認定事実によれば、被告会社は、原告らとの約定に従つたゴルフ場の建設につき、約定の完成時期を経過して九年を越えるにもかかわらず、ゴルフ場の建設工事に先立つて必要な京都府知事の開発許可及び砂防指定地内行為の許可を得る見込みがなく、何時建設工事を続行しうるかの見透しも立たないままの状況にあると認められる。このような場合には、原告らと被告会社の本件ゴルフ場を完成し、開場して、原告らに利用させる債務は、昭和五四年八月七日当時においてすでに履行不能に帰したものというべきである。

(2) そこで、右履行不能が被告会社の責に帰すべからざる事由に基づくものであるとの被告会社の抗弁について判断する。

先に認定した事実によれば、被告会社の本件ゴルフ場の建設工事が中断した原因としては、被告会社が本件ゴルフ場の建設計画後、京都府による規制措置がとられるに至つたこともその一つといえないわけではないが、その主たる原因は、被告会社が地元関係者より買収予定地内に砂防指定地域が存在することを聞いて知つていたにもかかわらず、事前にその調査を尽くさず、京都府知事から砂防指定地内行為許可を得る見込みが立たないまま、本件ゴルフ場の建設工事を開始したことによるものということができる。してみれば、被告会社の前記債務不履行は、被告会社の責に帰すべからざる事由によるものであるということはできない。

(3) 以上の理由で、被告会社は各原告に対し、本件入会契約の解除に基づく原状回復義務として各二〇〇万円の返還義務がある。

(三)  次に、預託金の返還期限が未到来であるとの被告会社の抗弁について判断する。

本件入会契約には、預託金について、預託を受けた日から一〇年間据置き、その後退会等の場合に返還する旨の約定があることは当事者間に争いがない。

しかし、右約定は、その約定の内容自体から明らかなように、合意解約の場合の入会預託金の返還手続を定めたものにすぎず、契約解除に伴う原状回復義務の履行につき制限を設けたものと解することはできず、被告会社の右抗弁は理由がない。

2  被告金井の取締役としての第三者に対する責任

先に認定した事実によれば、被告金井は被告会社の代表取締役として、約一五〇万坪の用地を必要とする九〇ホールの大規模なゴルフ場の建設を計画し、用地買収にとりかかり、その当初の段階において用地買収予定地内に砂防指定地域が存在することを聞いて知つていたにもかかわらず、砂防指定地内行為許可に先立ち原告らと本件入会契約を締結し、本件ゴルフ場の建設工事に着手したため、京都府から砂防法及び森林法違反により告発を受け、京都府警察本部によつて逮捕され、砂防法違反により京都地方裁判所において有罪判決を受け、本件ゴルフ場の建設工事を中止するの止むなきに至り、建設工事を再開できる見込みも立たない状況にあることが認められる。

右認定事実によれば、本件ゴルフ場は約一五〇万坪の土地を必要とする九〇ホールの大規模なゴルフ場であり、その建設予定地の大部分が山林や農地であることから、本件ゴルフ場建設に関係する種々の行政上の規制があることを推認するに難くない。したがつて、被告金井は被告会社の代表取締役として、多数の者の利害に係る本件ゴルフ場の建設を行なうにあたつてその成否につき事前に十分な調査研究を遂げたうえで計画を立てるべきであり、ことに、ゴルフ場建設の成否に影響を及ぼすゴルフ場建設に関係のある開発規制や砂防法又は森林法による規制に対する事前調査を尽くし、その行為許可を得られる見込みを立てたうえで行なうべきであるところ、これを欠いたまま本件クラブの会員を募集し、本件ゴルフ場建設工事を開始した結果、砂防法違反により逮捕され、有罪判決を受け、本件ゴルフ場の建設工事も中止され、未完成のまま現在に至り、建設工事を再開できる目途も立たない状況にあるものである。してみれば、被告金井には、被告会社の代表取締役としての本件ゴルフ場建設に関する職務を行なうにつき重大な過失があるものというべきであるから、これにより原告らの被つた損害を賠償する責任があるというべきである。

3  被告西嶋及び同高橋の詐欺による不法行為責任

(一)  原告らは、被告金井が本件ゴルフ場の建設につき、建設資金もなく、用地を確保できず、京都府知事の開発許可も取得することができないことから本件ゴルフ場の建設ができないことを知りながらこれを秘し、知名度の高い人達を本件クラブの発起人として記載した会員募集用パンフレットを利用して、原告らをして本件ゴルフ場が建設されるものと誤信させて預託金名下に各原告から二〇〇万円を騙取したものであり、被告西嶋及び同高橋は、これを知りながら右パンフレットに同被告らの氏名を記載させて金員騙取に加担したという趣旨の主張をする。

しかし、先に認定した事実によれば、被告会社は本件ゴルフ場の建設を現実に計画し、本件入会契約締結時には、本件ゴルフ場予定地一五〇万坪のうち一〇〇万坪を用地買収又は賃借により確保していたこと、被告会社は、当初ゴルフ場建設に関する規制措置がなかつたことから、本件ゴルフ場の建設を進めていたところ、その後に施行された京都府のゴルフ場建設事業の規制に関する基本要綱に基いて建設事業の申請手続をしたが結局許可を受けるに至らなかつたこと、被告会社は、本件ゴルフ場の建設について、ゴルフ場予定地が砂防指定地内行為許可を得ることができなかつたが、被告会社としては本件ゴルフ場予定地が砂防指定地域外と判断していたことが認められる。そして、被告会社代表者兼被告金井本人尋問の結果(第二回)によれば、本件ゴルフ場の建設費用として約一〇〇億円を要する見込みであつたところ、その内六割を被告金井が個人負担する予定であつたことが認められるが、被告金井が右金員を負担し得るだけの資力のないことを認めるに足りる証拠がない。

右事実によれば、未だ、被告金井が本件入会契約を締結するにつき、原告らに対し、本件ゴルフ場の建設ができないことを知りながらこれができるように欺罔したものとまで認めることができず、その他、原告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。してみれば、被告金井の詐欺を前提とする被告西嶋及び同高橋の詐欺を認める余地がなく、被告西嶋及び同高橋は、詐欺に基づく不法行為責任を負うものということはできない。

4  被告西嶋及び同高橋の発起人としての責任

(一)  原告らは、被告西嶋及び同高橋らに本件クラブの設立発起人に準じた責任があると主張するので検討する。

〈証拠〉によれば、本件クラブは、被告会社によつて、同会社の経営する本件ゴルフ場の円滑かつ健全な利用を目的として設置されたものであつて、その設置にあたり、被告会社によつて会則が作成されただけで、発起人、定款の作成、創立総会等通常の団体設立にあたりとるべき手続が履践されていないこと、本件クラブの会則では、クラブに理事及び理事会が置かれることになつているが、理事長は被告会社の取締役において推薦された者をもつて任じ、理事は、被告会社の取締役会において推薦された株主及び本件クラブの会員の中から理事長が委嘱することになつており、理事会の開催及び決議事項の定めはあるが会員総会の定めはないこと、本件クラブの運営は専ら理事会及び理事会の委嘱する各種委員会があたり、会員総会の干渉が認められないこと、本件クラブの入会金その他所定の諸会費はすべて被告会社に納入され、本件クラブの運営費用は被告会社が負担し、本件クラブには資産がないこと、本件クラブの会員募集は被告会社によつて行なわれたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によれば、本件クラブは、形式的には被告会社と組織上の差異があるとはいつても、既に設立されて活動している被告会社が経営する建設予定のゴルフ場の名称であつて、社団としての実体を欠くものであるから、団体法理に関する商法一九四条の規定を類推適用する余地がなく、被告西嶋及び同高橋らに本件クラブの設立発起人の責任を負わせる余地はないものというべきである。

(二)  原告らは、被告西嶋及び同高橋らに擬似発起人に準じた責任があると主張する。

〈証拠〉によれば、被告会社は本件クラブの会員募集にあたり、被告西嶋、同高橋らの承諾なしに昭和四八年二月頃に発起人として被告金井、同西嶋、同高橋ほか二六人の氏名を記載したパンフレットを、同年六月頃には発起人として右被告三名のほか一七人の氏名を記載したパンフレットを作成して配布したところ、被告西嶋、同高橋らから同人らの氏名を記載したことに抗議を受けたため、昭和四九年四月頃と昭和五〇年頃に作成したパンフレットには発起人に関する記載をしなかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

しかし、被告西嶋及び同高橋らが本件クラブの会員募集用パンフレットにその氏名を発起人として記載したかどうかはともかく、本件クラブは社団としての実体を欠くものであつて、団体法理を適用することが相当でないものであるから、同様に被告西嶋及び同高橋らに対して商法一九八条の規定を類推適用して擬似発起人の責任に準ずる責任を問うこともできないというべきである。

5  被告西嶋及び同高橋の名板貸責任

本件クラブの会員募集は被告会社によつて行なわれたものであつて、原告らは被告会社との間で本件クラブの入会契約を締結したものであること、本件クラブの会員募集に際し、被告西嶋、同高橋らの氏名が本件クラブの発起人として記載されたパンフレットが使われたこと、本件クラブが社団としての実体を備えていないものであることは先に認定したとおりである。

被告西嶋及び同高橋が、本件クラブの会員募集用パンフレットに、本件クラブの発起人としてその氏名を記載することを承諾していたかどうかはともかくとして、本件クラブは、形式的には被告会社と組織上の差異があるとはいつても、被告会社が開設、経営する本件ゴルフ場の名称であつて団体としての実体を欠くものであり、しかも、原告らは、既に設立され営業活動を営んでいた被告会社との間で本件入会契約を締結したものである。したがつて、被告西嶋及び同高橋らの氏名が右パンフレットに本件クラブの発起人として記載されていたからといつて、原告らと被告会社間の本件入会契約が、原告らと被告西嶋及び同高橋らとの間の入会契約に等しいものであるということが同人らの間で了解されていたというような特段の事情の認められない本件においては、被告西嶋及び同高橋が、原告らと被告会社間の本件入会契約に関して原告ら主張の名板貸責任に準じた責任を負うものということはできないというほかなはい。

四原告らの損害

原告らは、本件ゴルフ場の利用を目的として本件入会契約を締結し、被告会社に対し預託金として各二〇〇万円を支払つたものであることは先に認定したとおりであり、原告らは被告金井の前記行為によりそれぞれ預託金相当額の損害を被つたものというべきである。〈以下、省略〉

(福永政彦 小野剛 青野洋士)

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